おしながき

鰆の真子とえんどう豆の炊いたん


サワラ(鰆、狭腹) 学名:Scomberomorus niphonius
スズキ目サバ科に属する海水魚の一種

サワラは成長に応じて名前が変わる出世魚で、寿命は6~8年、大きなものは1メートルを超える。

 ・サゴシ(またはサゴチ) 40~50cm
 ・ナギ 50~60cm
 ・サワラ 60cm以上





サワラは水温が上がる春から秋頃にかけて表層を回遊し、水温が下がると深場に移動する。

4月~5月にかけて産卵のため外海から瀬戸内海に入る。ゆえに「鰆」という字があてられた。

関東では冬の寒鰆が好まれる。




大型魚のサワラは真子も大きい。

写真は実家から届いたサワラの真子だが、20cmを超える。25cm位あるだろうか。



サワラは小さいものでも60cm以上あるから不思議ではないのだが、普段よく見かけるたらこや鯛の子と比べれば格段に大きい。


     ◇

香川県にはサワラの卵巣を使ったカラスミがある。



写真は3年前に父が取り寄せてくれた「卯をじ」のからすみ。




ちょうど今時分、4~6月に200~300本が昔ながらの製法で作られる。

手間暇のかかるカラスミは1日に20本がやっとであるらしく、サワラの卵巣をひとつひとつ丁寧に扱う真摯な思いはこの言葉に凝縮されているように思う。

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あまりにも細かい作業を経て出来上がるので、「どのからすみがどの子から出来たか全部覚えています」
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卯をじ「鰆のからすみ



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子どもの頃、春になると鰆の真子とえんどう豆を炊いたものが食卓にのぼった。



鰆の真子の粒々プチプチした触感に、えんどう豆のぷちっぷちっとした触感、これが好物だった。

卵のプチプチ触感は、鯛や鰤と子と比べると鰆のほうが粒が大きくしっかりとしている。




何年ぶりだろう
鰆の真子とえんどう豆の炊いたん☆彡


日本の食卓に うましかて!


大豆の昆布煮(こんぶ豆)


ダイズ(大豆) 学名:Glycine max
マメ科ダイズ属の一年草

原産地は東アジア。ダイズの原種は「ツルマメ(学名:Glycine soja)」とされ日本にも自生している。

大豆を利用した加工食品は東アジアにとって古くから重要なタンパク源である。



今日は「大豆の昆布煮(こんぶ豆)」を作ろうと思い、はて昔の大豆の煮豆はどんなものだっだろう?と気になって調べてみた。

江戸時代の振り売りのなかに「煮売り屋」という商いがあって、天秤棒に「座ぜん豆」という見出しをつけている。

座ぜん豆(座禅豆)は黒大豆を甘く煮たもので、食べると尿が止まるということから僧が座禅の際に食べたことからこの名前がついたらしい。




料理網目調味抄』(1730年(享保15年)には次のように掲載されている。

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座禅豆 かたく煮るハ豆を布巾にてふきて 生漿にて炭火にて煮るくろ豆ハ丹波篠山名物なり
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「漿」は醤油のことで(巻頭の漢字一覧に「漿油(しょうゆ)」とある)、砂糖の記載はない。




大正時代になると様々な料理書に大豆の煮豆が登場する。

いくつかのレシピをピックアップしてみよう☆彡
いずれも砂糖をつかった甘めの味つけだ。

●『日用惣菜家庭料理』1906年(明39)
 <葡萄豆>
 大豆、砂糖、塩、醤油 (重曹を加えて煮る)
 細かな分量は書かれていない。

●『我か家の料理』1922年(大正11)
 <座禪豆>
 白大豆を炒り、醤油5杓、砂糖大さじ1、水あめ大さじ1、
 最後に紫蘇の穂の塩漬けを2合に対して盃1杯

●『家庭日本料理』1922年(大正11)
 <黒大豆(または黄大豆)>
 砂糖、醤油 (ごま油をたらして煮る)
 細かな分量は書かれていない。 

●『新しい四季の野菜料理』1926年(大正15)
 <葡萄豆(ぶどうまめ)>
 大豆5合、赤ざらめ75匁、塩3匁、醤油2杓
 *75匁は281.25g(上白糖なら大さじ31になる)

●『調理概論:炊事専務卒教育参考書』1930年(昭和5)
 <煮豆>
 大豆4杓、蒟蒻10匁、人参5匁、生姜5分、砂糖5匁、醤油2杓
 *大豆4杓は72.156ml(1/3カップ弱)、砂糖18.75g(大さじ2)

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1914年(大正3)に出版された『大正営業便覧』という本がある。

いま風にいえばビジネス大全のようなもので、職業ごとに資本(家賃・敷金・設備投資・立地・原料費)、利益、繁忙の時期、取引、店の設備が記載されている。

この中に「煮豆商」というものがあって、レシピも掲載されている。
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●大豆煮方
 大粒の大豆を焙烙で炒り、からき赤味噌を鍋に入れ、其中に鰹節を削り込み炒り豆に適宜に混ぜ、杓子の類で絶間なく掻き回しながら煮附ける。其中に蓮、牛蒡、蒟蒻を細かく刻んで入れて煮るのである。

●葡萄豆煮方
 これは大豆を水に浸して膨張したものを充分に煮えた時、若し残りあればその湯を棄てゝ醤油少量を注ぎ込み砂糖を多く入れてこれを煮詰めるのである、寒気のときは十日内外も貯蔵することができる。

●黒豆
 大豆の一種であつて上皮の黒いもので其煮方は前と同じ。
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原材料は「大豆」なのだが、砂糖を使ったものと使わないものがある。

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こうして眺めてみると、座禅豆、葡萄豆、煮豆、大豆煮、黒大豆を用いるはずの座禅豆と葡萄豆が黄色大豆でも代用されたり・・と名前とレシピが混乱している。。



ちなみに煮豆商の【利益】の欄には「この営業の利益は従来は三割以上もあつたものであるが、現時(いま)は同業者の競争のため実際は二割位しかない」とある。

いつの時代も低価格化は世の常である。




日本の煮豆はとても甘い。

料理家の辰巳芳子さんが「ガリシア風隠元豆のスープ」の項で次のようにいう。

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ただ一つ問題なのは、日本では、砂糖で炊かれることが多いこと。青森では「粥(け)の汁」といっていりこの汁に刻んだ野菜と共に隠元豆を煮て食べたり、ご飯に加えたりして、塩味で豆を食べることもあります。

隠元豆の原産地・中南米・スペインなどでは、日々のスープに豆を入れ、ときに主食として、ときにはわざとつぶして食感をかえ、豆料理が日常に定着しています。日本でも、塩だけの味で、シンプルに味わう豆料理をもっと食卓にのせてほしい。そう願いながら、ここでは洋風の扱いを紹介します。
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市販の豆は甘くて苦手だが自分で作れば加減がいい☆彡


日本の食卓に うましかて!


わさび鰹節ご飯


ワサビ(山葵) 学名:Wasabia japonica Matsum.
アブラナ科ワサビ属の多年草 (原産地は日本)

このワサビ… あまり元気ではないものの、それでもチューブのワサビよりは断然いい。

ちょっとしたスーパーならいつでも手に入るようになったのは流通のおかげだ。


最近は海外でもワサビが栽培されている。

例えば…
・英国 WASABI COMPANY
・アイスランド Nordic Wasabi
・アメリカ OREGON COAST WASABI
・豪州 The Tasmanian Food / Shima Wasabi

本格的な鮨となれば生のわさびが求められるわけで、海外で栽培されるのは必然だ。🍣

そういえばどこかの外国の記事で、クレソン農家がわさび栽培をしているというのがあった。栽培環境が近いのだという。




1867年(慶応3年)福沢諭吉は二度目の訪米をした。2月27日~7月28日までの5カ月間、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンD.Cを訪れる。

福沢諭吉の日記には日本に着いたら食べたいものが記されていて、そのなかに「わさび花鰹節」なるものがある。


阿川弘之氏が原文を書き写してくれているので引用してみよう。

 一、うしほ すゝき又はくろだい
 一、あらい 同断
 一、に肴  鯛
 一、酢の物 海老防風
 一、茶碗 うなぎの玉子むし
 一、わさび花鰹節
 一、したし物 ほふれんそふ
 一、ゑだまめ
 一、新つけるい色ヽ
 一、鰻
 一、飯

食味風々録』阿川弘之


潮汁、洗い、煮魚、酢の物、うなぎの茶碗蒸し、わさび花鰹、ほうれん草のおひたし、枝豆、新漬け、鰻、ご飯。




帰国したのは7月28日。

帰路のコロラド号のなかで書いたとすれば6月下旬から7月にかけて、まさに夏真っ盛り!🌞

潮汁と洗いに選んだのは鱸(すずき)と黒鯛(ちぬ)、ともに夏が旬。鯛は旬を過ぎているからあえて煮魚としたのかもしれない。

浜防風と海老の酢のもの、枝豆、新漬けも、まさに夏そのもの。

そして、わさび花鰹節に飯、である。


32才の福沢諭吉、なかなかの美食センスだ。




     ◇

『孤独のグルメ』にもわさび鰹節ご飯が登場する。

伊豆・河津町にある「かどや」の生ワサビ付わさび丼、炊き立てのご飯にかつお節とおろした生わさびをのせて食べる。

これぞまさに福沢諭吉が日記に書いた「わさび花鰹節」+「飯」=「わさび丼」🍚


ちなみに、武者小路実篤氏(1885-1976)も子供時代にわさび鰹節ご飯をよく食べたらしい。
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おかずは、おかかに醤油をかけてわさびを添えたものと、ししとう焼きが子どものころからの定番であった。これは実篤が公家の出であるためでもある。明治時代の公家の食卓はつつましいものであった。
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文人暴食』嵐山光三郎



話が長くなるついでに小島政二郎氏(1894-1994)のレシピを紹介しよう。鰹節をご飯に混ぜ込むスタイルである。

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小島政二郎家の「ワサビ飯」は、

 (略)

「炊きたての御飯に、きれいにかいたオカカを混ぜて ただし、あんまり丁寧にまぜていると、女と同じことで、御飯の奴(やつ)、いい気になってまずくなる。ぬるくなってはおしまいだ。かまわないから、手荒にさっさとまぜることだ。

オカカに掛ける醤油も、ドップリ掛けるべからず。オカカの色が、まだ羞(はず)かしげに残っているくらいで留めておくこと。

ワサビもそう。一度にドッサリまぶすと、バカになって利かないから、少しずつ、一ト口食べたら、またチョイと、といった風に足して行くことを忘るべからず。何でもいいから、体裁も風体もかまわず、手早に願います」

 (略)

福沢諭吉の「わさび花鰹節」も、食べる時は米飯にまぶしておよそこんな拵えだったろう。
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食味風々録』阿川弘之


ちなみに、阿川家の鰹節ご飯は海苔入り二段重ねである。




今日は小島家風にご飯に鰹節を混ぜて☆彡


日本の食卓に うましかて!


過去Blogはこちら
 → おかかのおにぎり🍙
  かつお節と切手と商品券

 → わさび漬けとかまぼこ
  わさびの辛味はアリルイソチオシアネート

 → 花山葵のおひたし
  可憐な小さな白い花が咲く

 → 葉わさびの醤油漬け
  学名:Wasabia japonica Matsum.
  植物学者・松村任三氏の名前に由来する


煮穴子ご飯


マアナゴ(真穴子) 学名: Conger myriaster
ウナギ目アナゴ科に属する魚類

穴子と鰻、焼きか蒸しか、関西と関東で違いがあることはよく知られている。




そもそも関東では長い魚が好まれない、と作家の高橋治氏は言う。(高橋氏は千葉出身)

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関東ではなぜか長いものが好まれず、鱧(はも)、太刀魚(たちうお)、穴子、ついで赤鱏(あかえい)などもめったに家庭料理のメニューには登場しない。

画家岩満重孝氏は魚に博学な人で、著書に穴子を弁当に売る駅を紹介されているが、関東の駅の名は全く出て来ない。

とはいえ穴子は江戸前のすしの華だ。穴子とこはだは関西が逆立ちしても追いつかない。

すしだねの穴子には二種ある。あぶってだすものが本筋、いやそれは外道だとこの論争は片づきそうにもない。
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旬の菜滋記』 高橋治


わたしは瀬戸内海のそばで育ったが、鱧、太刀魚、穴子は確かにそう😋食卓によくのぼった。

が、アカエイ? はて一般的だろうか・・

     ◇



握り鮨ならやはり江戸前だが、押し寿司なら関西。

なかでも穴子寿司といえば、阪神大震災まで神戸・元町にあった名店「青辰」を愛した文筆家は多い。

「青辰」が書かれたエッセイを読んでいくと、時代とともに良い穴子が獲れなくなり徐々に消えゆく様が感じられて寂しくもある。




英文学者の吉田健一氏(1912-1977)のエッセイに詳しいので引用してみよう。

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元町三丁目の青辰という穴子の鮨屋だった。

ここに穴子丼というのがある。

見たところ、ただの丼に飯が少な目に盛ってあるだけで穴子の切れ端もないが、これは飯の中に並べてあって、食べるとその味と飯の味が一緒になって適当に腹が減っていれば、鰻飯などこれに遠くおよばないのではないかという気がする。

鰻飯よりも幾らか軽いのがかえって舌には珍しいのかも知れなくて、その上に何故か、全体が酒に漬けたような味がするのがどうにも新鮮なのである。

(略)

この店で出すものの中での逸品であって、青辰に行ったら先ずこれをためしてみることである。




もっとも、これは始終ある訳ではないので、この穴子丼を注文する積りならば、店を開けたばかりの午前十一時頃に行って頼まなければならない。

穴子も焼き立てで飯も炊き立てでなければならないからで、あとは穴子を使った普通の大阪鮨になる。
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酒肴酒』吉田健一



穴子寿司ではなく穴子丼、開店と同時に頼むべし。
(魚辰の穴子丼180円の時代である)




小島政二郎氏(1894-1994)は、佐世保で食べた駅弁の穴子飯が美味しかったという話に続けてこう言っている。

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神戸の「青辰(あおたつ)」で、何年か前までは、これよりもうまい穴子飯を食べさせてくれたが、今では穴子寿司だけになってしまった。

但し、穴子が思うように取れなくなったので、午前中に行かないと、大抵暖簾をおろしている。
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青辰から穴子丼が姿を消し、思うように穴子が獲れないという。




最後に丸谷才一氏(1925-2012)の話。

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翌日の晝食(ちゅうしょく)は、本当は青辰の穴子ずしにするはずだった。

これは神戸随一であるだけではなく、ただ神戸にしかない絶品を食べさせる店で、午後一時になるとかならず売切れといふし、予約してなければありつけないといふ評判が高い。

(略)

火事を出して休業中で、十月(昭和四十七年)にはまたはじめるといふ噂を耳にした。
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食通しったかぶり』丸谷才一



その後、青辰は阪神大震災で店を閉めたそうだ。
いちど食べてみたかった。




     ◇

今日は明石産の穴子を煮穴子に☆彡



穴子が少ないので、錦糸卵を敷いて



彩りに絹さやを添えてみよう



煮詰めたタレを回しかけてたら出来上がり☆彡


日本の食卓に うましかて!
絹さやを添えたのは失敗… 香りが穴子を上回る。。


過去Blogはこちら
 → 煮穴子丼
   ふらっとふらりっと穴子を風呂に
   入れるつもりで湯通しすべし


蕗ご飯


フキ(蕗、苳、款冬、菜蕗) 学名:Petasites japonicus (Siebold et Zucc.) Maxim
キク科フキ属の多年草、雌雄異株

     ◇

沖縄・奄美は平年より少し早く梅雨入りした。

昨年は梅雨入りがずいぶん遅く関西では6月20日頃だった。(平年は6月7日頃らしい)

ゴールデンウィーク後半から雨模様が続ているが☔ さて今年はどうだろう。




江戸後期の俳人・高桑闌更の「半化坊発句集」に次の句がある。(1787年(天明7年)刊、半化坊は高桑闌更の別号)


 初夏 旅行

   山陰や蕗の広葉に雨の音

   青葉若葉下は玉ちる岩の水



初夏の色と音が聞こえてくるようだ。


     ◇



アイヌの伝承に登場するコロボックル(korpokkur)は、アイヌ語で「蕗の葉の下の人」という意味である。

幼い頃に佐藤さとる氏の「コロボックル物語」に魅せられたひとは多いと思う。

1970年代の子ども向けテレビ番組の黄金期には『冒険コロボックル』というアニメも放送されていて、大きな葉っぱの葉陰に小人がいるんじゃないかと覗いてみたりした。

小学校の通学路にはたばこ栽培の畑があって、今時分から6月ぐらいまで大きな葉っぱがわさわさと茂っていた。




     ◇

今日は村田吉弘氏のふきご飯レシピを参考にして、蕗の葉っぱを使った炊き込みご飯☆彡



蕗の葉といっしょに炊いたご飯に



下処理した蕗を刻んだものを



混ぜ合わせたら出来上がり☆彡


  刻んだ蕗が座金(ざがね)のようで
  わが家では「ワッシャー飯」と呼ぶことにしたw


日本の食卓に うましかて!