鰆の真子とグリーンピースの煮物


鰆(さわら)の真子とグリーンピースを一緒に煮たものが子どもの頃から好物で、春が来たなあと思う。

そんな季節の出会いもはや名残。

一週間降り続いた雨がようやくあがり、今日はきれいな青空が広がっている。

  六月を奇麗な風の吹くことよ   子規

まだ五月だけど子規のこの句がよく合う清々しい梅雨晴れのお天気。


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鰆の真子は大きく細長い形をしている。


《鰆(さわら)の真子》


鯛の真子と比べてみると…


《鯛(たい)の真子》

鯛の真子は丸みのある楕円形で、鰆と鯛の成魚の形のちがいが真子の形にも表れる。



鰆の真子は卵の粒が大きくて、卵を包む薄い膜に張り巡らされた毛細血管も太い。


魚の血抜きの状態にもよるが、他の魚と比べて太くしっかりしているように思う。


よかったら過去Blogも見てね 👀
 → 鯛(たい)の真子とえんどう豆の炊いたん
 → 鰤(ぶり)の真子の卵の煮つけ
 → 鰆(さわら)の真子とえんどう豆の炊いたん


     ◇


さて調理。

適当な大きさに切った真子を煮立てただしに入れて


グリーンピースを加えて


味つけはグリーンピースの風味を生かしたいので控えめに



いちど冷ましたら出来上がり☆彡


日本の食卓に うましかて!


鯛の昆布〆と胡麻だれ和え


長いと思ったゴールデンウィークもはや最終日、ついこの間桜の花を見たように感じるのにもう立夏。

今日は薫風という名に相応しい見事なお天気で新緑を吹き抜ける風がとても気持ちいい。


食の旬も春から夏へと移り変わる。

 行く春や鯵にうつろふ鯛の味  大江丸


     ◇


今日は羅臼昆布を使った鯛の昆布〆


羅臼はオホーツク海の南端に細長く飛び出した知床半島に位置し、


出典:『日本水路誌 第7巻』水路部編(大正8)

根室海峡の向こう側には国後島が平行している。


大正8年(1919年)に出版された水路誌から
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羅臼
知床半島ノ主村ニシテ戸数七十、植別村役場、郵便局(電信取扱)、警察分署、村医々務所等アリ。

住民ハ商漁相半ス。

良牛川ノ上流距濱約二浬ニ温泉アリ。腫物及傷瘡ニ効能アリト云フ。一民家アリテ旅宿ヲ営ム。

羅臼ヨリ経路通ス。羅臼ヨリ温泉ニ通スル経路ノ殆中間ニ北海道庁施設ニ係ル鮭卵孵化場アリ。毎年人口孵化法ヲ行ヘリ。

此地ヨリ南方根室マテ三十里余ハ完全ナル道路アレトモ、羅臼ノ北方ハ道路開ケス。僅ニ岩角ヲ繞(めぐ)リ礫濱ニ沿ヒテ羅臼ノ北方九里ホロムイニ達シ得ルノミ。
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出典:『日本水路誌 第7巻』水路部編(大正8)


良牛川は羅臼川のことで、羅臼岳を源流に根室海峡へ注いでいる。



ラウス(羅臼・良牛)というのはアイヌ語の「ラウシ(獣の骨のある所の意)」が転訛したものらしい。

参考:知床・羅臼町「羅臼町の概要


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羅臼昆布は茶褐色で幅が広く柔らかいのが特徴


上品でコクがある。


日本酒と水を半々にしたものにつけて柔らかく戻す。


たっぷりとした大きさ


塩をして水気を拭った鯛のさくを包んで


冷蔵庫で寝かせる。


1日すると表面がうっすらとべっこう飴色に


まずは半分をそのままお刺身で☆彡



もう1日寝かせた半分はごまだれ和えに☆彡

練りごまに白だしを加えて適当な粘度になるよう水で加減


鯛とごまだれを和えて青しそをトッピングしたら出来上がり☆彡


日本の食卓に うましかて!


鯛にゅうめんと《鯛の鯛》


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煮麺(にゅめん)とは、索麺を冷索麺の如く淪きて洗ひ、煮汁にて烹調しるをいふ。俗にこれを入麺と呼ぶ。之に魚糕、豆腐皮、椎茸、麩、三葉、菠薐草、芹、摘み菜等を入れて煮たるを加役(かやく)煮麺といふ。
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出典:『日本家事調理法』生間正起 (明治37)


※ 加役はいろいろな具材、魚糕はかまぼこ、豆腐皮は湯葉、菠薐草はほうれん草のこと。


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鯛のあらで出汁をとって鯛にゅうめんを作ろう☆彡


鯛の頭を下茹でして、水洗いしてから


昆布でだしを取る。


沸騰したらあくを丁寧に取り除いて


加減をみて白だしを少し、日本酒、みりん、薄口醬油、塩で味を調えて


あらについた身は丁寧にほぐす。



胸びれの身をほぐすと「鯛の鯛」が現れる。


取り出した鯛の鯛と、中央の丸いものは鯛の目の水晶体。


《鯛の鯛と水晶体》


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鯛には「鯛の九つ道具」と呼ばれる特徴のある形をした骨がある。


昭和4年(1929年)に出版された『食味の真髄を探る』という本の表紙に鯛の九つ道具が描かれている。

出典:『食味の真髄を探る』波多野承五郎



著者の波多野承五郎氏は安政5年(1858年)に掛川城下の町奉行屋敷で生まれた。明治4年に慶應義塾に入塾。外交官であり実業家であり随筆家でもあった。

うんちく好きならおすすめの一冊。


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本の挿し絵を借りて九つの道具を見ていくと… まず「鯛の鯛」は胸びれのつけ根にある。



尻びれに近いあたりには「鳴門骨」がある。


これは血管棘(けっかんきょく)と呼ばれる部分が肥厚化したものらしい。


額には「三ツ道具」、目の周囲には「鯛石」「大龍」


他に「鍬形」「竹馬」「小龍」がある。



不思議なのは「鯛之福玉」


これは鯛の口の中に棲みつくタイノエという寄生虫であるらしい。


これら九つの骨を全部持っていると《物に不自由せず幸福になる》と言われる縁起物なのだとか。

集めてみようかな <゜)))彡


参考:デジタル大辞泉「鯛の九つ道具


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さて、調理の続き。茹でた素麺をだしで煮立てて


鯛のほぐし身を温めて


器によそったら出来上がり☆彡


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金目鯛のみぞれ鍋


花冷えの日にはみぞれ鍋☆彡

といいたいところが、今年は暖かいまま桜が満開でベランダ越しに見える桜もはや葉桜。🌸🍃

今年はなぜか裏山から鶯の声が聞こえない。例年だとお彼岸の頃に最初の声を聞くのだけど...


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花冷え

障子をあけると 宿の庭に
大きな櫻の樹があつて たわゝに花咲いてゐた

雨あがりの しづかな月夜で
南の國の もう蛙が鳴いてゐるのであつた

 花冷えの古市の宿
   しみじみと古風な旅愁が胸の底に湧いた
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出典:『愛日抄:詩集』岩田潔(昭和16)


どこか旅行に出かけたいなあ。


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今日は高知産の金目鯛をみぞれ鍋仕立てに☆彡


解凍した金目鯛に軽く塩をして冷蔵庫ですこし寝かせて


表面に浮いた水分を丁寧に拭いて


箸でつまみやすい大きさに切って片栗粉をはたいて


油で揚げる。


金目鯛の赤が鮮やか


これをだしでさっと煮立てて


青味には青梗菜の葉っぱの部分


最後に大根おろしを加えて出来上がり☆彡


日本の食卓に うましかて!


まながつおの西京焼き


マナガツオ(真魚鰹、真名鰹、鯧)学名:Pampus punctatissimus
スズキ目マナガツオ科の海水魚

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江戸時代の『倭漢三才図会』に「末奈加豆乎(まなかつを)」とある。


出典:『倭漢三才図会105巻首1巻尾1巻[35]』(文政7)


挿し絵に描かれているマナガツオは、


マナガツオというより顔つきはひがれ(干かれい)に似ている感じ。目を一つにすれば…


《カレイ目ヒラメ科タマガンゾウビラメ》


実際のマナガツオはおでこと鼻先がもう少し丸い。



《スズキ目マナガツオ科マナガツオ》


似ているとしたらイボダイ(ウオゼ)が近い。


《スズキ目イボダイ科イボダイ》


よかったら過去Blogも見てね 👀

→ まながつおの広東風蒸しもの
→ うおぜ(えぼ鯛)の煮つけ
→ ひがれ(干かれい)と菜っ葉の煮もの


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江戸時代から少しさかのぼると、慶長年間(1596~1615)の『節用集』に「學鰹(マナカツヲ)」とある。

『節用集』は今でいえば国語辞書にあたる。


出典:『節用集2巻』(慶長2)

右から2行目のなかほどに「學鰹(マナカツオ)」の字が見える。「學」という字があてられているのは、「まな(真名/真字)」からきているのだろう。


さらにさかのぼると、明応5年(1496年)の『節用集』には「末那(マナ)」「魚(マナ)」とある。


出典:『節用集2巻[2]』(明応5)

食用の魚を「真魚(まな)」というから、ここでいう「魚(マナ)」は食べられる魚という意味だと思うが、「末那」がマナガツオを指しているのかどうか分からない。

参考:デジタル大辞泉「真魚(まな)



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最後に大正時代から引用。

「西海に鮭なく 東海に真魚鰹なし」の言葉のとおり、マナガツオは西日本の代表的な食材のひとつ。

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まながつをの味噌漬は浪華名産の一つと呼ばれるだけあって、この魚は京阪地方では非常に賞味される。


出典:『海魚小話』(大正15)


雌雄大さを異にする魚で、雌は大きく雄は小さく、平常は外海に棲んで居るが産卵期になると泥底の内海へやって来て、水の中層を遊泳し、八九月頃になると再び外海へ去って仕舞ふ種類の魚である。


吾が国では北海に少なく、主として西南海、瀬戸内海、九州西海岸に多く漁せられ、朝鮮の南東岸、支那海には豊獲せられる。



漁期は晩秋より春三四月頃迄で、大量の時などは海底に大群をなして居ることがある。

 (略)

支那でこの魚を鯧魚といふは、鯧魚の遊泳する時に群魚が之に随ふて其の涎沫をなむとか。鯧に類するより名づくと或る人の説である。荒唐無稽の話であらうが、魚名の起こったわけはかようにあるそうである。
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出典:『海魚小話』綿末商店調査部編(大正15)



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今日はまながつおの切り身を使って西京焼き☆彡


《銀箔を散らしたように見える鱗》



みりんでのばした白味噌をまながつおに塗りつけて


ビニール袋に包んで冷蔵庫で2~3日。


味噌をきれいに落して、魚焼きグリルで焼く。


西京漬けは焦げやすいので弱火~中弱火で


焦げそうなときはアルミホイルをかぶせて


西京焼きのいい匂い。


茗荷の浅漬けを前盛りにして出来上がり☆彡


日本の食卓に うましかて!


鯛めし


たいめし【鯛飯】
1 鯛のそぼろをのせた飯。
2 飯を炊く途中で鯛の身をのせ、醤油味で炊き上げる飯。
3 鯛の刺身をごま醤油に浸し、熱い飯にのせて食べるもの。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「鯛飯


     ◇


ひとくちに「鯛めし」といっても、鯛をそぼろにして混ぜ込んだもの、汁をかけたもの、ごまダレで和えたお刺身をのせたもの… 地域によって様々な食べ方がある。

古い本からレシピを拾ってみると…



出典:『最新和洋料理法 附・家庭菓子の製法』 鯛の料理 (明治41)


鯛めし(明治41)
鯛めしの拵へ方(明治41)…うしお汁を添える
鯛飯(大正7)
鯛の胡麻汁飯(大正7)
鯛の汁掛け飯(大正7) … 汁かけ飯
浜焼飯(大正7)    … 汁かけ飯
鯛飯の炊きやう(大正8)… 汁かけ飯
鯛飯の炊き方(大正9) … 汁かけ飯
鯛飯(昭和2)     … 汁かけ飯
鯛御飯(昭和3)


汁かけタイプが多いのは、冷や飯を美味しく食べる工夫だろうか。

当時の炊飯は薪を燃料にお釜で炊くのだから大変な家事労働で、毎食炊き立てのご飯を食べるのは難しかった。

必ず日に一度は冷や飯となれば、温かい汁をかけるレシピが多いのもうなづける。


📖


話はそれるが、前述の「鯛めしの炊きやう」を掲載している『家庭経済米の調理法百種』に台所の様子が描かれていて、これがなかなか面白い。




大正8年(1919年)頃の都市型キッチン。

板敷きの間にスマートなかまどが置いてある。
その横には七厘と鉄瓶。

床の一部はおそらく上板(あげいた)になっていて床下収納ができるのだろう。

置きかまどの左は一段下がり、土間のうえに簀の子がひいてあって、ここには立ったまま使える流し台に水道の蛇口が備え付けられている。



流しには洗い桶、ささらのたわし、しゃもじ、包丁とまな板のセットなどが整然と並び、シンプルかつスタイリッシュ。

最先端のシステムキッチンだ。



さらに注目は女性の履き物がスリッパであること。


つま先に水よけがついた草履のようにも見えるが


脱ぎ揃えた図をみるとやはりスリッパのように見える。


この本には「節米の仕方」とサブタイトルが付いていて、次のような序文が添えられている。

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簡易生活とか、経済本位とかいふ言葉は、今や一種の流行語として用ゐられるやうになって、何れも「質素生活」を意味する訳であるが、これは往々言ふべくして行はれ難いもので、ややもすれば、華奢贅沢に流れ易く、殊に近頃の如く、虚栄の盛んな時代に於ては尚更の事である。

 (略)

読者諸君は、宜しく本書を応用し、一椀の粗飯に舌鼓して、家庭経済上の一助ともならば、余の本懐とする所である。
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「節米」「質素生活」というと随分古めかしく聞こえるが、「節約レシピ」と「シンプルな暮らし」と読み替えれば今も昔も人びとの感覚は変わらないなあと思う。


     ◇


今日は焼いた鯛を昆布だしで炊いた鯛めし☆彡



塩をして一晩冷蔵庫で寝かせた鯛の骨付き半身を


魚焼きグリルで焼く。

焦げやすい尻尾をアルミホイルでくるんで


芳ばしい香りが立つようしっかりと焼き目をつける。


お米2カップに、一晩水につけておいた昆布だし2カップ、醬油大さじ1、日本酒大さじ1、塩少々。


強めの中火で沸騰したら弱火にして10分。

最後に30秒強火にしてから火を止めて10分蒸らして出来上がり☆彡


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なると金時の大学芋


だいがくいも【大学芋】
乱切りにしたサツマイモを油で揚げ、甘いたれをからませ、黒ゴマを振りかけた食品。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「大学芋

     ◇


徳島特産「なると金時」



すだちや半田そうめんと並ぶ人気商品。

早堀り用のサツマイモの品種(高系14号)で鳴門市・徳島市・板野郡で栽培されているブランド芋。

参考:公益社団法人徳島県物産協会「なると金時



今年の秋は父が一箱送ってくれた。


《赤紫色の表皮がとても綺麗》

皮の赤紫色と中の薄いクリーム色のコントラストが鮮やかで目にも楽しい。


     ◇

なると金時という名前があるのは、この鮮やかな赤紫色ゆえなのだろうか。

お伽話の金太郎、彼の名前は坂田金時。


出典:『月百姿 金時山の月』芳年(明治23)

  まさかり担いで 金太郎
  熊にまたがり お馬の稽古 ♪


金太郎というのは坂田金時(さかたのきんとき)の幼名で、怪童丸とも呼ばれる。



出典:『和国忠孝鏡ノ内足柄山ニ三田の仕金時を見出スノ図』香蝶楼豊国、一陽斎豊国



出典:『桃太郎・怪童丸』香蝶楼豊国






「金時の火事見舞い」という言葉がある。

普段から顔の赤い坂田金時が火事場でさらにまっ赤になっていることをいう。

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金時の火事見舞

よく絵を見るに金時の顔は、まっ赤な事まるで朱でも塗ったやうです。

火事見舞などに行く人は、あはてゝ道をかけて行く上に、しかも火事場はあついから、普通の人でも顔が赤くなりませう。

赤い顔の金時が火事見舞にでも行けば、それはそれは赤い顔になる事でせう。

顔の真赤なことを『金時の火事見舞』といったり、金時の醤油焚(しょうゆだき)ともいひます。
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出典:『故事俚諺教訓物語』森脇紫逕著(大正1)


金時は赤いことの比喩であるらしく、金時豆・金時小豆・金時人参・金時鯛など、赤い色をした食材の名にしばしば使われている。


     ◇


今日はなると金時で大学芋を作ろう 🍠


乱切りにして


油で揚げて


しょう油・みりん・砂糖を煮詰めた餡にからめたら出来上がり☆彡


日本の食卓に うましかて!





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